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現地に行かなければ 何も始まらない [ニュース]

「現場に行くことから全てが始まる」となんだかテレビのサスペンスドラマのような
書き出しですが、新人記者時代に先輩から口すっぱく教えられた言葉です。
朝に夜に鳴り続けるポケットベルに急かされるように、県内中あちこちの事件事故現場に
取材に飛び回り、今もその経験は僕の財産としてしっかり息づいています。

青年海外協力隊に参加したのも、ボランティアスピリットを持ち、世の中のために
何か役に立ちたい、という思いはもちろんありましたが、毎日毎日自分が
見聞きする、原稿を読むニュースに登場する、紛争と貧困の「現場」である
「開発途上国」が本当にどんな場所なのか、この目で見て耳で聞いて体感したいという
「ニュースの現場」への渇望がいちばん大きな動機でした。

実際に赴任したパプアニューギニアは確かにテロの危険は無いものの、
犯罪の発生率も高く、マラリアやデング熱、加えてHIV/AIDSの高い感染率、
そして火山の噴火に地震と、「今日一日を無事に生きる」ための努力を払うこと、
そのストレスと緊張感から全く解放されないまま毎日を過ごす、日本では
かつて感じたことの無い異様な時間を体感しました。

ともすればそのプレッシャーにつぶされそうになった時に、僕を助けてくれたのは
近所で共に暮らす、そして取材で出会う、「現場」の子どもたちの笑顔でした。

DSC02626.JPG

そして突然自分たちの前に現れた日本人の僕を受け入れ、支えてくれた
職場の仲間たちでした。

DSC02902.JPG

日本と比べれば、物も無い、お金も無い、安全も無い、清潔なベッドも無い、
ナイナイ尽くしの「開発途上国」ではありましたが、人々は実に逞しく凛々しくつつましく、
お互いを支えあいながら毎日を生きています。

でもその彼らの努力にも関わらず、HIV/AIDSの感染拡大、強盗や部族紛争の犯罪などで
この素晴らしい人々が短命のうちに人生を終えざるを得ない事実。国民の平均年齢が
50歳代という事実が重く僕らの前に立ちはだかります。この写真の子どもたちのうち
どれだけの子どもたちが、その50歳代にすらたどり着けないまま命を失っていくのか、
そう考えると、たまらない気持ちになります。

愛する人を守りたい、大切な人を育てたい、という思いは日本人もパプアニューギニア人も、
そしてアフガニスタン人も同じです。そしてそのアフガニスタンに今、僕の大切な友人が
暮らしています。協力隊員の同期、同じ英語クラスの仲間として、共に学び暮らした彼女は
薬剤師としてパキスタンの病院に派遣されました。途中あの大地震に遭遇し、同じJICAの
仲間を失う辛い出来事を乗り越え、家族を失い傷つき泣き叫ぶ現地の人々の治療のために
毎日を過ごした彼女は、さらに自らの志を貫くために帰国後もネパールの山村へ渡り、
そして今、アフガニスタンのカブールで活動しています。

「テロが繰り返されるようなアフガンになぜわざわざ出かけるのか」と、あるいは
「銃声が毎日のように聞こえるパプアニューギニアでなぜ暮らすのか」と思われる方も
大勢いらっしゃることでしょう。

そんな皆さんの疑問に対する僕らの答えはひとつ。
「現地に行かなければ、何も始まらない」

パプアニューギニアの放送局での仕事を通じて、僕は病を予防し、犯罪を減らし、
人が人を大切にする気持ちを伝えることができると、ラジオの未来と可能性を実感して
帰ってきました。他の隊員仲間たちもそれぞれが人生の羅針盤を見つけながら
世界各国から日本に持ち帰りました。アフガニスタンで活動をしている彼女がどれほど
豊かな人生経験を得て帰ってきてくれるか、今から帰国報告がとても楽しみです。

そしてこうした僕らの思いを(それは「わがまま」と言えるかもしれないけれど)理解し、
開発途上国の現地へと送り出してくれた家族や友人たちには「感謝」の言葉しか
ありません。こうして今、無事に帰国し暮らしていられるのも、周りの人々の
暖かく深い愛情のおかげです。今回のペシャワール会の伊藤さんのご家族のお気持ちを
考えると、今回の悲しいニュースが伝える重みは、「ニュース原稿」だけでは伝え切れません。
自分の身が切り刻まれるような痛みと深い悲しみを感じながら、僕はこのニュースを
伝えています。このニュースを他人事のように「素通り」することが僕にはできません。

そしてなおもメディア人として僕はゆるぎなくこう思い続けています、
「現地に行かなければ、何も始まらない」。

いつか僕らがアフガニスタンやイラクに出かけられる日が来るように祈っています。
パプアニューギニアの子供たちが軽井沢の子どもたちと同じように健やかに
毎日を過ごすことができる日が来るように祈っています。
そして世界各地の「現地」で活動する仲間たちの安全な帰国を祈っています。

今、こうして日本で、軽井沢でブログを書いている自分が、果たして何ができるのかを
考えていきたいと思います。


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コメント 4

iku

はじめまして、小森さん。

何度かおじゃましていましたが、はじめてコメントさせていただきます。
今年7月にPNGのゴロカで現地ドクターとプロモーションを行ってきました。
『現地に行かなければ、何も始まらない』という言葉のとおりだと、私も感じます。
でも、危険な地域ほど伊藤さんのようなボランティアやJIKAの方々が必要とされていることも事実ですよね。ご両親のお気持ちを考えると、居た堪れないのですが、お父様は気丈に伊藤さんの意志を受け継いでいってほしいとTVおっしゃっていたので、すばらしい方だとおもいました。

私がPNGに滞在したのはたった一週間でしたが、本当に色々考えさせられました。
今できることから、少しでも小さな個人の力ですが、社会貢献していきたいと思っています。


by iku (2008-08-29 22:16) 

FM軽井沢DJ

暖かいメッセージ、ありがとうございます。

ここ軽井沢には多くの皆様が訪れます。
笑顔に溢れる家族連れのみなさんを見ていると、
僕はいつも思います。

親が子を見守り、子が親を見つめる視線の暖かさ、
優しさは日本も開発途上国も同じだと。
その優しい目線をどうかほんの少しだけ、
まだ見ぬ国、知らぬ国の子供たちにも、家族にも
向けてほしいなあと。

国際保養休養地としての軽井沢に暮らし、
訪れる人たちにこそ、世界のどこよりも貧困や病気、
紛争に傷つき悲しむ人たちに思いやりの気持ちを
向けてほしいと。
by FM軽井沢DJ (2008-08-29 22:52) 

R

もうパプアには行かれないのですか。
by R (2008-08-30 11:56) 

FM軽井沢DJ

年に1回くらいは「里帰り」したいなと思ってます。
辛いこと、しんどいこと、いっぱいあったし、
今でもきっと暮らすのはなかなか大変な場所だとは思うけど、
やっぱり自分が大切にしたい人たち、自分を大切にしてくれた
人たちが住んでいる場所にはいつでも足を運びたいと思います。

パプア以外の場所にも行きたいなあ。
アフリカ、中東…いつでもどこでも僕を必要としてくれる場所、
僕が行きたいと思える場所には行くことのできる人間でいたいと。

なかなか実現は難しいけれど「現場に足を運ぶこと」が
僕のポリシーですから。
by FM軽井沢DJ (2008-08-30 19:55) 

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